ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

レオナルド・ダ・ヴィンチ 美と知の迷宮

2017-01-31 23:37:47 | ら行

謎多き天才を紐解くドキュメンタリー。


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「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美と知の迷宮」68点★★★☆


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2019年は
レオナルド・ダ・ヴィンチ没後500年だそう。

それを前に、ダヴィンチを紐解くためのドキュメンタリー映画です。

ダ・ヴィンチの時代を生き、彼に関わったり
彼の絵のモデルとなった歴史上の人物が
再現ドラマで彼を語り、
プラス、専門家たちによる解説がある。

「サライ」と呼ばれる最も近しかった弟子との関係のくだりとか
すごくおもしろかったし

とてもわかりやすく
中学生くらいからOK、という感じ。

これ見ると、絶対美術や歴史がおもしろくなると思うので
おすすめしたいですが


ただ
とてつもない天才の全てを
割とまんべんなくさらっているので、
サラッとした印象もあるんですよね。

「入門編」という感じ。

ワシ的にはもっと深く知りたかったかな、という気持ちもしないではない。

ワシ、「ヴァチカン美術館 4K3D」の取材で
イタリア文学者、原基晶さんに
「ダヴィンチがフレスコ画に向いてなかった」とか
いろんな話を聞いていたので
もっとしつこくしりたかったなーとも思ったんですね。

でも、いま自分のブログを振り返っても
「ツウの一見」連載を見直しても、
その部分の原さんの話は書いてなかった。

そうか、あれは
2015年秋に出版予定だった『“ツウ”が語るこの映画 3』のために
加筆してたものだった。

ゲラチェックも終えて、あとは印刷だけだったのに
近代映画社の倒産で、頓挫してしまった本・・・。

会社はなにもしてくれないので
自力で1年間、あちこちに売り込んできたけれど
いまだ出版までこぎ着けられていない本・・・。

やっぱり、世に出すべきじゃないかなあ!と
全然関係なく、思いをあらたにしました。

がんばろ。


★1/28(土)からシネスイッチ銀座で公開中。ほか全国順次公開。

「レオナルド・ダ・ヴィンチ 美と知の迷宮」公式サイト
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エゴン・シーレ 死と乙女

2017-01-28 23:07:11 | あ行

100年前に描かれた
モダンな絵にびっくりですよ。


「エゴン・シーレ 死と乙女」69点★★★★


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1910年のオーストリア、ウィーン。

20歳のエゴン・シーレ(ノア・サーベトラ)は
16歳の妹ゲルティ(マレシ・リーグナー)をモデルに絵を描いていた。

その裸体画はパトロンに好評で、
シーレは美術界で頭角を現し始めていく。

シーレの才能を認めるクリムトは
「若すぎる少女を描くのは危険だ」と彼に忠告するが
シーレは聞く耳を持たない。

そして、あるとき事件が起きた――。


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クリムトと並ぶウィーンの画家、
エゴン・シーレの人生を描いた作品。

不勉強なことに、この画家を知らなかったので、
まず、なんとモダンな絵だろうとびっくりしました。


シーレは多くの女性たちと浮き名を流した
スキャンダルな画家として知られ、
わずか28歳で亡くなってしまったそうで

映画はその凝縮された8年ほどの人生を
描いています。


やはり最初にヌードモデルになったのが妹で
(それがすごいよなー
最期のときまで続く
この兄妹の不思議な関係が、大きな軸かな。

妹ゲルティ役の女優さんもとてもいいし。
シーレ役のノア・サーベトラも端正なハンサムだし。

この兄妹の関係の複雑さが
単なる「破滅型の画家の破天荒な人生」だけでない
味になっていると思います。


ただ、シーレが途中で
全盛期のミューズであり、長年の恋人だった女性ヴァリでなく
向いに住む姉妹の妹と結婚する・・・というくだりが
ちょっとわかりにくかったんですよね。

ヴァリはそのことにショックを受けて
それで名画「死と乙女」が生まれた――というキモの部分なんだけど

見ている限り、
ヴァリという人は「私は結婚なんかしない」と強く立脚した女性で
(強がりだったのかな)
シーレの本心もわかりにくかった。


プレス資料の中野京子さん(作家・独文学者)の解説で
ようやくわかったので、ここに参照させていただきますが

モデルというのは
当時の社会の末端ともいえる職業で

だからシーレにとってヴァリはどんなに気の合う最愛の人であっても
最初から「身分違い」というか
結婚なんて論外、な相手だったそう。

なんだ、そういうことだったのか。

だから、いろいろメリットも考えて
そこそこの家のお嬢さんと結婚した、と。

で、そんなことわかっていていたヴァリだったけれども
どこかで「そんなこと超えてゆけ」と、期待していた部分もあったのかなあ
だからシーレの結婚に、ショックを受けた・・・ということなのね。

そうなのかー。

もうちょっとそこ丁寧に描いてほしかったなー。


★1/28(土)からBunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「エゴン・シーレ 死と乙女」公式サイト
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ホームレス ニューヨークと寝た男

2017-01-27 23:58:00 | は行


これは痛快&痛感なドキュメンタリー!

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「ホームレス ニューヨークと寝た男」75点★★★★


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NYに暮らすマーク・レイ。
モデル出身でファッション・フォトグラファーの彼は
50代にしてルックスよし。
スーツを着こなして街を歩く様は、まさに“勝ち組”そのもの。

が、しかし。
彼が寝に帰るのは、ビルの屋上。
って、ペントハウスとかじゃないですよ。
コンクリートの隙間に、段ボールとビニールシートを敷き詰めて寝てる。

そう、彼は実はホームレスなのだ!という
驚きのドキュメンタリーです。

マーク氏の元モデル仲間だった監督が
この話に驚いて3年間密着したんだそう。


マーク氏の生活ぶりは実におもしろい。

ジムで汗を流し、ついでにシャワーに入り(笑)
朝は公衆トイレで顔を洗い、このパリッとしたスーツに着替える(笑)

大都会でのサバイバル生活を
楽しんでいるようでもあるけれど

いやあ、実際はかなり「弱音」をさらけ出しているんですよね。

極寒の屋上で、寝袋にくるまりながら
「どこで、間違った?!」と、自問する。
そのさらけ出し感、正直さが、この映画のミソ。

そんな彼に
勇気をもらう人は多いかんじゃないかと思います。


っていうか、この状況、日本でもまったく他人事じゃないし。

リストラされたことを家族に言えず、公園で時間を潰すお父さん。
キャリーバッグをガラガラ引いて
颯爽と出張帰りに見えるあの人も実はそれが全財産なのかも・・・とか
この映画を見てから、思うようになってしまいました。

人間観察が、一段深まった気がします。


そして。来週1/30発売の『AERA』で
マーク・レイ氏のインタビューをしました。
映画のとおり、すっごく人好きするいいキャラで、かなり盛り上がり(笑)

“人生の師匠”的な発言にもグッときましたので
ぜひご一読を!

しかも、すっかり日本が気に入ったマーク氏、
再来日し、なんと日本で就活するらしいですよ?

映画とともに、その動向に注目!(笑)


★1/28(土)からヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開。

「ホームレス ニューヨークと寝た男」公式サイト
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エリザのために

2017-01-26 23:59:11 | あ行

本作でカンヌ3度目受賞の
ルーマニア出身、クリスティアン・ムンジウ監督!


「エリザのために」72点★★★★


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ルーマニアの医師ロメオ(アンドリアン・ティティエニ)には
イギリス留学を控えた
高校生の娘エリザ(マリア・ドラグジ)がいる。

が、ある朝、通学途中に
エリザは暴漢に襲われてしまう。

大事には至らなかったが
エリザの動揺は大きく、留学のための試験に失敗しそうだ。

あんなことさえなければ、成績優秀で留学できたのに――。

父ロメオは、なんとか娘の夢を叶えようと
奔走するのだが――?!


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もしこれがリーアム・ニーソン兄さん主演とか
ハリウッド映画だったりしたら
父の奔走は相手への復讐とか、アクションになっていくのかもしれない。

しかし、ここでの父の奔走は
コネやツテや口利き、といった方面に動くんですね。


朝っぱらから暴漢に襲われてしまう、という状況から
治安の悪さもよくわかり、

こんな場所から、せめて娘を脱出させたいと願う
父の気持ちもよくわかる。

ルーマニアという国の暗部が
浮き彫りになり
職業柄“誠実”で通っている主人公ロメオをじわじわと包み込み

「こんな社会で、誠実とは何か?」「ルールとは?」
我々にも問うてくるんです。

結局、ルールって
自分の都合でいかようにでも変化するんだよね、って話で

人間の弱さや、さがを
共感できる日常の範囲内でじっくり描き、魅せてくれました。


しかも
エリザ役のマリア・ドラグジは
ミヒャエル・ハネケ監督の「白いリボン」に出ていたあの少女!
今回も、印象、つええ。


★1/28(土)から新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開。

「エリザのために」公式サイト
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僕と世界の方程式

2017-01-25 20:04:25 | は行

「リトル・ダンサー」製作者による作品。
キュートでウルッと深い!



「僕と世界の方程式」76点★★★★



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少年ネイサン(エイサ・バターフィールド)は
幼いころから人とのコミュニケーションが苦手。

医師から「自閉症スペクトラム」と診断されるが
数字や図形に異常な興味を示すネイサンは、
数学の理解力が抜群だった。

教師マーティン(レイフ・スポール)と出会った彼は
その才能を磨き

国際数学オリンピックのイギリス代表チームの
選抜候補に選ばれるが――?!


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自閉症スペクトラムの少年が
国際数学オリンピックに挑戦するが――?!というお話。


監督はもともとテレビドキュメンタリーで
国際数学オリンピックに出場する学生たちを追いかけ
そこで才能ある発達障害の少年に出会い、
このストーリーを生み出したそうです。


「ザ・コンサルタント」といい
いま、こうした特徴を持つ主人公を描く作品が出てくることは
とてもよいことだなあと感じます。

なぜならば、それは
主人公への家族の接し方、あり方を描くことになり
我々周囲の、主人公へのあり方を描くことにもなるから。


この映画ではネイサンに
「それが、お前のパワーなんだよ」と教えるお父さんが素晴らしいし、
逆に、どうもギクシャクしてしまう
お母さんとの関係などが丹念で、とても見応えがありました。

そして
そんな複雑な主人公を演じる、エイサ・バターフィールドが見事。

人とは違った目で世界を見ている少年の
困難と特別な輝きを、繊細に演じています。


さらに
単なる「すごい数学の天才!」って話じゃなく、
実際のところ、数学オリンピックが主目的でないっていうのも慧眼。

「人生は数学じゃないんだ!」にウルッときますよ。

数学オリンピックのライバル国である
中国の少女の刺客っぷりにはハラハラしますけどね(ハハハ。冗談、冗談。笑)


★1/28(土)からYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。

「僕と世界の方程式」公式サイト
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