ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

ぼくのおじさん

2016-10-31 23:48:32 | は行

漂う懐かしさと古風さは
北杜夫原作だからかあ、と。


「ぼくのおじさん」68点★★★☆


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小学4年生のぼく=雪男(大西利空)は
「自分のまわりにいる大人について」という
作文の宿題を出されて考え込んでいた。

公務員の父(宮藤官九郎)や
専業主婦の母(寺島しのぶ)では
つまらなくて、てんでネタにならない。

が、そうだ!
うちには居候している父の弟
“おじさん”(松田龍平)がいるじゃないか!

大学の非常勤講師をしているおじさんだけど
ほとんど万年床でゴロゴロ。
漫画ばっかり読んで、くだらないイタズラをしては
ぼくのお母さんに叱られている。

ぼくはそんなおじさんをネタに
作文を書くことにしたんだけれど――?!



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「オーバー・フェンス」
が発表されたばかりの
山下敦弘監督の新作。

ダメなおじさん(松田龍平)をフォローする
甥っ子・雪男(大西利空)のあきれ顏やふるまい
そして
松田龍平氏のトボけた間や古風な言葉使いが
ホカホカと可笑しく
楽しめる作品でした。


ただね
映画のほとんどが
その
松田龍平氏のトボけた表情や間、
甥っ子・雪男がダメなおじさんをいさめる視線のおもしろさで
成り立っていて
役者のキャラクターに負いすぎかなあとも思ってしまう。

映画全体も
あくまでも小4の雪男の作文目線というか
あまり奥までは語らないんですよ。

ハワイまで行っちゃう?!というぶっ飛びさも
ヒロイン・真木よう子さんの背景や、おじさんとの間柄も、
ちょっと噛み足りないかなあとは思いました。


wikiによると
原作は1962年から連載され、1972年に発表されたそう。
やっぱりジャック・タチ「ぼくの叔父さん」(1958年)、よぎってるよね。


★11/3(木・祝)から全国で公開。

「ぼくのおじさん」公式サイト
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92歳のパリジェンヌ

2016-10-28 23:18:15 | か行

なんと、実話。


「92歳のパリジェンヌ」74点★★★★


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マドレーヌ(マルト・ヴィラロンガ)は
パリで暮らす92歳の女性。

息子や娘たちも成功し、孫もいて
その人生は幸せに思える。

その日、マドレーヌは
娘のディアーヌ(サンドリーヌ・ボネール)の家で行われる
自分の誕生日パーティーに向かっていた。

しかし
最近は車を運転しても視界がぼやけ
周囲のスピードについていけない。

そして
祝福ムードたっぷりのパーティーで
マドレーヌは言う。

「今まで本当にありがとう。でも、もう体がしんどいの。
2カ月後に私は逝きます」

そう言われた家族は
静かなパニックに陥り――?!

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自分で自分の“死ぬ日”を決める。

この映画のテーマを知ったとき
なんともうらやましい勇気だと思った。

でも見る前は
それって理想だけど、自分にそんな勇気はないだろうと思っていた。

しかし、観たら
「もしかしたら、自分にもできるかもしれない」と思った。

それで、逆に勇気が出たんですよ。


自分がいつまで生きるかわからないから
病気や仕事や年金や将来が不安なんだ。

でも「自分で死ぬことを決められる」と思えば、
なんだか吹っ切れるというか
生きる勇気も湧いてくるっていうか。


映画に
「心臓発作になって『これで死ねる!』と思ったら、
余計なお世話で救急医療を施され、
いまや病院に監禁されてるんじゃよ』と話すおじいさんが出てくるけど
ほんとに、いまの状況って、その通りだと思う。

同じ感じ方をする人もいるかもしれないから
この映画、ワシはぜひオススメしたいです。


でもね、実際
これだけの意思と勇気は、なかなか出ないですよ。

でも、話が進むと
彼女がどういう人物だったかがわかって
納得。


さらに実話が基だと聞くと
「おおっ」とギアが入る。


そして、やはりこの映画、
男性の感想は、あまりよくないらしい(苦笑)

映画のなかで
母親の決断を聞いたあとの息子と娘それぞれの反応そのまんまのようで
実に興味深い(笑)。

この兄貴だって自分なりに
母を愛しているのだけれどね。

映画全体は
テーマほどに重くないし
爽やかさすらある。
最後にはボロボロ涙腺、きましたけど(笑)


★10/29(土)からシネスイッチ銀座ほか全国順次公開。

「92歳のパリジェンヌ」公式サイト
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湯を沸かすほどの熱い愛

2016-10-27 23:52:02 | や行

お涙モノかなあと思ったけど
いやいや、ひねってある。


「湯を沸かすほどの熱い愛」73点★★★★


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16歳の安澄(杉咲花)の家は銭湯。

しかし父(オダギリジョー)が1年前にふらっと出て行ったきり
銭湯は休業状態。

母・双葉(宮沢りえ)は
パン屋でパートをし、家を支えていた。

が、ある日パート先で倒れた双葉は
自分がガンで
「余命わずか」であると告げられる。

ショックを受けつつも
「死ぬまでにやらねばならないことがある!」と
奮い立った彼女は

まずは家出した夫を探し出し
家に連れ帰ろうとするが――。

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余命宣告を受けた母、という題材ながら
お涙モノでなく(いや、にじみますけどね)
明るい兆しとユーモアが効いてる作品でした。

「死」がテーマではなく
女性たちがそれぞれの生い立ちを乗り越え、
自立していく、というのがテーマかな。

まあ、すべては
だらしない男どもが悪いんだけど(笑)


宮沢りえ氏は特にファーストシーン、
彼女だと思わせないおばさんっぽさに「おお・・・」となった。
衰弱していく様子も真に迫っていました。

なかなか“そのとき”が来ない様子も
キレイ事じゃないリアルだと思ったし。


しかしなんといっても
オダギリジョー氏のゆるーく、ダメ―な夫ぶりが最高(笑)
娘役の杉咲花氏も光ってる。

それに
伏線のはり方、収拾の仕方がうまいんですよ。

「こんな感じ」と思うものを
ほいっ、と裏切ってくれる感ありますので
気になっている方は、ぜひ。


★10/29(土)から全国で公開。

「湯を沸かすほどの熱い愛」公式サイト
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あたらしい野生の地 リワイルディング

2016-10-26 20:40:19 | あ行

大都会のすぐ近くに
こんな場所があるなんて!


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「あたらしい野生の地」71点★★★★


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干拓事業の失敗で
45年間放置されたオランダの土地。

そこに新たに生まれた
驚きの「野生の王国」を描くドキュメンタリーです。


この場所はアムステルダムから
車で1時間程度のところだそう。

大都会のすぐそこに
こんな場所があるなんて!
マジで驚きます。

なんといっても強烈なのは
草原を走る野生の馬コニックの群れの壮大さ。

映画はその場所に生きる
キツネや大鹿など動物たちの営みを
ときにユーモラスな口調で紹介していきます。


このナレーションが
意外に邪魔にならないのもいい。


ただ「野生の国」では
生死の厳しさも“野生のまま”であり


丸々太った雁のひなたちを襲うキツネや
厳しい冬を越せずに群れから脱落する仔馬など
強烈な生と死の現実も描かれる。

ワシ、そういうのが人一倍苦手なんですが
でも、この映画は辛くなかった。

思うに、その理由は
動物たちの彼らの死に
忌むべき“人間”が一切関わっていないからなんですね。


この場所で起こるすべての死に無駄はない。
すべては繋がっているのだと、感じられる。

だから、生死も正視できる。

逆に
弱い者は生き残れない、厳しい現実もあるわけで。

だからこそ
生と死は誰にでも平等だと
心を強くしてもらったような気がしました。


いま、この映画が、我々に何を伝えるのか。
じっくり考えることが大事だと思います。


「通販生活」web版の「今週の読み物」で
この映画の日本公開に尽力された
管啓次郎さんに、インタビューをさせていただいてます。

「週刊通販生活」



ぜひ映画と併せて
お読みいただければ幸いです!

ちなみに
ワシもクラウドファウンディングに参加しました~!(笑)

★10/29(土)から渋谷アップリンクほか全国順次公開。

「あたらしい野生の地 リワイルディング」公式サイト
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手紙は憶えている

2016-10-25 23:59:16 | た行

アトム・エゴヤン監督作品。

「手紙は憶えている」69点★★★★


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90歳のゼヴ(クリストファー・プラマ-)は
妻ルースを失ってから
物忘れが激しくなった。

そんな彼は友人マックス(マーティン・ランドー)から
1通の手紙を受け取る。

そこには
「君が忘れても大丈夫なように、手紙を書いた」と
書かれていた。

実はゼヴとマックスは
アウシュヴィッツ収容所の生存者。

手紙には
彼の家族を殺したナチスの容疑者4人の名が記されていた。

ゼヴは手紙を手に、復讐の旅に出る。
果たして、4人の誰が「その男」なのか――?!


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ミステリーの世界にも
確実に高齢化の波が押し寄せており(笑)

「Mr.ホームズ」
での
93歳のホームズの活躍も記憶に新しいですが

今回は90歳。

しかもあきらかに、認知症と診断されている。

そんな
記憶を途切れさせながらの老人探偵に
別の意味でハラハラさせられます。

4人の容疑者を、手紙を頼りに探す――という展開も
面白いんですが

あまりに主人公の挙動が心許なく
明らかに彼を操っている人物がまるわかりなことが
ミステリーとしてはどうなのかなと思いもする。

老人の歩調に合わせた展開も
ややスローモーすぎるきらいもあり。

でもクリストファー・プラマ-、そして
ブルーノ・ガンツといった
渋いを通り越した名優たちの共演は見応えあり

ラストも、どっぴゃん!、きましたけどね。


★10/28(金)からTOHOシネマズシャンテほか全国で公開。

「手紙は憶えている」公式サイト
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