ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

SAINT LAURENT/サンローラン

2015-11-30 23:48:18 | さ行

昨年の「イヴ・サンローラン」に続き、
また新たなサンローラン映画が。


「SAINT LAURENT/サンローラン」46点★★☆


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1967年、パリ。
イヴ・サンローラン(ギャスパー・ウリエル)は
人気デザイナーとして超多忙な日々を送っていた。

パートナーのベルジェ(ジェレミー・レニエ)氏や
モデルたちとクラブに繰り出すのが唯一の息抜きだったが
さすがに
日々のプレッシャーに押しつぶされそうになる。

そんなとき、彼はジャック(ルイ・ガレル)と出会い
その魅力の虜になるのだが――?!


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先に公開された「イヴ・サンローラン」よりも
先に企画が進んでいたという本作。

しかし
「あちらがこっちを追い越すことに重きを置いてた」
(ベルトラン・ボネロ監督談)そうで、
しかも向こうはサンローラン財団の公認を取った。

じゃあ、こっちは違うことをやろうぜ!と
監督は考えたそうです。

サンローランが「最も精力的で破壊的だった」という
1967年からの10年間だけに焦点を当てている。

その心意気はイイと思う。
で、サンローラン役の
ギャスパー・ウリエルはハンサムだし

彼と仲良しになるルル(レア・セドゥ)もキュートなんだけど
申し訳なくも
想像以上にう~ん……、という感じ。

ほとんどがドラッグに溺れ、男に溺れ、
ラリってるシーンばかり(苦笑)

セクシィ~なシーンは
嫌いじゃないんですが(むしろ、普段はウェルカム!笑)

まともに仕事しているシーンもほとんどないとすると
天才デザイナーの一体何を描きたかったんだろうなぁと思ってしまう。

151分(!)というのもネックだなあ。


ただつくづく
サンローランという人物が、
これほどに人々を(特にやはりフランス人ね)惹きつけるものなんだなあと、
それはなぜなのか?を考えさせられました。


ワシのおすすめサンローラン映画は
ダントツ、ドキュメンタリーの「イヴ・サンローラン」

そしてギョーム・ガリエンヌ版の「イヴ・サンローラン」と
比較してみると

ふーむ、ワシは結局
サンローランより、彼を支えたベルジェ氏が
好きなんだな(笑)

その彼の視点が今回全然ないのが
不満なのかもしれません。


★12/4(金)からTOHOシネマズ・シャンテほか全国順次公開。

「SAINT LAURENT/サンローラン」公式サイト
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007 スペクター

2015-11-28 23:05:42 | た行

ワシにとってボンドって
もう
ダニエル・クレイグなんだよねえ。


「007 スペクター」72点★★★★


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スカイフォールで、上司M(ジュディ・デンチ)を失った
ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)。

そしていま彼は年に1度の祝祭「死者の日」に湧く
メキシコにいた。

ターゲットと激しい戦いを繰り広げた彼は
不気味なマークが刻印された指輪を手にする。
それはある闇の組織の印だった――。


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第一印象は
「クラシカル」な気持ちよさ。

冒頭、
メキシコの「死者の日」パレードの大群衆のなかで
ボンド(ダニエル・クレイグ)が流麗に動き回り
それをまた流れるようなカメラワークが追う。

そしてヘリも飛ぶ大アクションにつながっていき
「ほお・・・(よく撮ったなあ)」とため息。

その後も
時系列に沿って、謎を追いながら、
ボンドが世界中を駆け回る。

単純な構成なんだけど優美なカメラワークと
大がかりでリッチなロケ、

そしてダニエル・クレイグの優雅さとキャラで
映画って
こんなにも魅力を出せるんだなあと。
その原点を見たというか
身を任せているだけで楽しいや、という(笑)。

今回、ダニエル・クレイグは
ヒョウのようなスマート&クールさは健在だけど

若干、肩の力が抜けているというか
どこかオフ感、ラフ感があるのも
ちょっとイイ。

事件を追う動機や立場、
子ども時代のエピソードが出てきたりするのも
関係あるのかな。
あと、雪山でのセーター姿とか?

Q(ベン・ウィショー)がかなり大活躍するのも
ポイント高し!(笑)

ダブル・ボンドガール(ウーマン?)となった
レア・セドゥの美しいけどベタっとしてない
スッキリ感もいいし
対するモニカ・ベルッチの妖艶なこと!
(もうちょっと出てほしかったけどね)

あと
敵役のあの方よりも
M役のレイフ・ファインズが
めっちゃくちゃ存在感ありました。

これで最後ではないか?と言われているダニエル・ボンド、
うーん、どうなんだろう。
もう1作くらいイケるんじゃないすか?(てか、やってほしい。笑)


★12/4(金)から全国で公開。

「007 スペクター」公式サイト
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ハッピーエンドの選び方

2015-11-26 23:21:01 | は行

ほのぼの話を想定すると
ガゴン!と殴られますよ(笑)


「ハッピーエンドの選び方」72点★★★★


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イスラエルのエルサレムにある
老人ホーム。

発明好きのヨヘスケル(ゼーブ・リバシュ)は
愛する妻レバーナ(レバーマ・フィンケルシュタイン)と
ホームで暮らしている。

あるとき
末期の病いで入院する親友を見舞った彼は
「もう楽になりたい」と願う友と
「楽にしてあげて」という妻の懇願に負けて
ある装置を発明する。

しかし、そのことが大きな波紋を呼び――?

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宣伝ビジュアルからなんとなーく想起する
ほのぼのハッピー話ではないことは
事前にお知らせしておきます(笑)

例えば
「陽だまりハウスでマラソンを」
もそうだったんですが

昨今の高齢者の話は
現実に即してよーく考えられていて
簡単に「ハッピー!」とはいかない。

しかし、この映画では
そこにシニカルさとも違う
高齢世代ならではの、というか
独特の乾ききってヒリつくようなユーモアが挟まれているのがおもしろい。

「笑っていけない場面で、なぜか笑ってしまう」笑いにも
似てる気がしました。


本作の主人公ヨヘスケルが発明したのは
「人生を、自分らしく終えたい」と本気で願う人のための装置。

でも誰もがそう願っていても
実際には勇気がなかったり
「倫理的にどうなのか?」と、いろいろ立ちはだかるわけですね。

友人の頼みだから聞いたけど、
じゃあ、自分の奥さんだったら、果たして決断できるのか?と。

看る人、看られる人の感情も入り交じり
けっこうシビアな展開になる。
まあそこがリアルで、いいんですけどね。


舞台がイスラエルのエルサレムという
あまり馴染みのない場所だというのも興味深く

どこの国でも
高齢社会の状況は似たようなものだと
つくづく思ったりもしました。

ラストも、気持ちはよくわかる。
でも、やっぱり、やるせないなあ。


★11/28(土)からシネスイッチ銀座ほかで公開。

「ハッピーエンドの選び方」公式サイト
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黄金のアデーレ 名画の帰還

2015-11-23 18:09:43 | あ行

これは予想以上におもしろかった~!


「黄金のアデーレ 名画の帰還」74点★★★★


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1998年。

ロサンゼルスに暮らす
82歳のマリア(ヘレン・ミレン)は
ある裁判を起こそうとしていた。

それは故郷オーストリアでナチスに没収された
叔母の肖像画を取り戻すための裁判。

その肖像画とは、かの有名な
金色に輝くクリムトの名画だった――!

だが、現在の名画の所有者はオーストリア政府。
彼らが「国の至宝」を手放すことなんて、あり得るのか?!

マリアは弁護士ランディ(ライアン・レイノルズ)に
相談を持ちかけるが――。

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かの有名なクリムト絵画を
オーストリア政府から取り戻そうとした女性の
実際の出来事を基にしたお話。


こういう実話ものって
割と正攻法で、まあ普通かな、ってことが多いんですが
この映画はおもしろかった。


実際、演出は手堅く、
過去と今を行ったり来たりする手法も普通なんだけど

クリムトのモデルとなったアデーレの話だけでもなく、
ナチスの暴挙や、つらい歴史の話だけでもなく、

返還を求める裁判の駆け引きのスリルだけでもない、という
単純構造でないのがいいんですね。。


最初は渋々、マリア(ヘレン・ミレン)を手伝うことになる
新米弁護士(ライアン・レイノルズ)や
彼らをウィーンでサポートする
若いジャーナリスト(ダニエル・ブリュール)の姿を通して


過去に向き合い、ときに前の世代が犯した過ちを認め、
それを償おう、正そうとする若い世代の勇気と行動を
浮かび上がらせた点が見事。

彼らの正義感に
「正しき人間のふるまいとは」を見せつけられ
グッときました。

「ミケランジェロ・プロジェクト」
繋がっている話なのも興味深いところで
逆に公開のタイミング、よかったかもね。


さらにちょっとおもしろいお話を。

最新号の『週刊朝日』(11/24発売)おなじみ「ツウの一見」で
「美術館を手玉にとった男」について
国立西洋美術館の渡辺晋輔さんに取材させていただいたときの
こぼれ話なんですが


例えば展示会をしたり、絵画を購入するときに
美術館員にとっては
「それが贋作かどうか」よりも
「ナチスの没収品ではないか」のほうが
よりリアルに心配な点なんですって。

海外から作品を借りて展示会をするときなどは
「何があっても、必ず、その国に返すこと」が
契約書の必須事項にあるそうな。

この映画をみると
「なーるほど!」と思いますよ、きっと。

あ、本編の「美術館~」話もおもしろいので
ぜひご一読を!


★11/27(金)から全国で公開。

「黄金のアデーレ 名画の帰還」公式サイト
コメント (4)
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みんなのための資本論

2015-11-20 23:30:12 | ま行

あら、これ、わかりやすい!

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「みんなのための資本論」72点★★★★


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あのピケティ氏より早く
「格差」を問題にしてきた経済学者
ロバート・ライシュ氏のドキュメンタリー。

これは、ホントにわかりやすくて
おもしろい。


のっけから、小さなミニクーパーに乗って登場するライシュ氏は
身長147センチ。

「この車が自分と釣り合っている」とニコニコ顔で語り、
カリフォルニア大学バークレー校で
学生たちを前に講義をする。

その語りは
話術巧みなエンターテイナーさながらで
グイグイ引き込まれます。


アメリカでは貧困層1億5千万人の財産を
合わせた以上の富を
たったの400人の富裕層が所有している。

なぜ、そんなことになってるのか?

その解説が
とてもわかりやすいんです。


「消費至上主義」には疑問を持つワシだけど、
「中間層(年収500万を中心に、上限50%の年収250万~750万の層)の消費が、国を支えているんだ」という
ライシュ氏の主張には納得。

「格差が問題なのではなく
格差に我慢できないほどの状況が問題なのだ」という話にも共感できる。


結局は
富裕層への税率優遇→金持ちの政治掌握→民主主義の崩壊となっていくんだと
理解できました。


必要な対策が「まずは富裕層への公平な課税」という点も
ピケティ氏の主張とまったく同じ。
(映画にはピケティ氏の共同研究者
エマニュエル・サエズ氏も登場してます)


1970年代からのグローバル化とテクノロジー進化が
中間層となるマジメなフツーの労働者の賃金を低下させ
現在の悪循環を生んでいること

そのしわ寄せが
過剰な民族差別や右翼化を生んでいる、という話を聞きながら

うわあ
現代日本とリンクすることこの上ない。
他人事じゃありません。


しかも
ライシュ氏はあのビル・クリントン氏と学友で
かつては労働大臣も務めた人。
机上だけでない現場経験者の重みは大きいし、
また彼の来歴もちゃんと紹介され、
「なぜ、彼が“不公平”を問題にするのか」も納得できる。


「シャーリー&ヒンダ」のように
消費社会を見直す→エコ、への流れにも共感するけれど、

実際、ライシュ氏の唱える話は
すごく現実的だと思える。

なにより若者たちに本気で希望を託している、
彼の講義にはウルッときました。

勉強になるエンターテイメント経済学、
おすすめです。


★11/21(土)からユーロスペースほか全国順次公開。

「みんなのための資本論」公式サイト
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