エバ夫婦の山紀行ログ

道産子60代、四季を通じて主に夫婦で登った北海道の山を中心に紀行文を載せています。アウトドア大好き夫婦。

天塩富士(1450m)~前天塩岳(1540m)   

2015年07月19日 | 山紀行 (道北)
ブログ「道北ヤブ山日記」ogino氏の山行に触発されて・・・
天塩富士 (1450m)前天塩岳 (1540m)   
猛烈な藪漕ぎは2年分に相当、疲労困憊で足が攣った・・・

■ 山 行 日    2015年07月17日(金)~18日(土)  1泊2日
■ コ ー ス    前天塩岳コース~天塩川本流左股沢~天塩富士
             ~前天塩岳~登山口

■ メ ン バ ー    夫婦登山 №8
■ 登 山 形 態    登山道~沢登り~藪漕ぎ~登山道
■ 地 形 図   1/25000地形図  「天塩岳」「宇江内山」(うえんないざん)
■ 三角点・点名  天塩富士、前天塩岳・・・三角点・点名無し
■ コースタイム  登り 天塩富士まで4時間30分  
             天塩富士~前天塩岳まで4時間40分
          下り 前天塩岳~ヒュッテ 2時間03分

<登り>
 5:15     天塩岳ヒュッテ出発
 5:40     新道連絡路分岐
 5:52     左股沢出合(入渓)
 7:30     1100二股
 8:18     1250三股
 9:35     1435稜線上
 9:45     天塩富士(1450m)頂上

<下り>
10:05     下山開始、前天塩岳へ
12:50     1394コル
14:40     登山道出合
14:45     前天塩岳(1540m)頂上
15:15     下山開始
16:48     左股沢出合地点
16:56     新道連絡路分岐

17:18     ヒュッテ登山口




★ 触発・・・
「藪山界のプリンス」と称されるogino氏は、自らのブログでも「山と人生はヤブだらけ?・・・」と語る
藪好き、縦走好きの山屋さん。旭川在住で藪山仲間として一度だけ山行を共にした事がある。
毎週のように求める山行の数々は私たちの比ではない。そしてその内容も情報の少ない道北の山
が多い。当サイトでもリンクさせて頂いているが、天塩岳周辺の計画はogino氏の報告を読んで
触発され行きたくなった山である。特に未踏の「天塩富士」は夏道が無く沢からの登頂と長い
オール藪の稜線を辿った記事には感動を覚えた。残雪期なら比較的容易に踏める天塩富士も
無雪期の天塩富士はそうはいかない。

ogino氏の紀行には通常コースタイムは掲載していない。
今回の天塩富士に関しても同様で私も敢えて記録を聞かずに挑戦してみる事にした。

ogino氏のブログ「道北ヤブ山日記」 天塩富士~前天塩はこちら 

★ 天塩富士 1450m・・・
前天塩岳の北東約1.8㎞の稜線上に位置する1450mの無名峰が通称「天塩富士」と呼ばれている。
夏道は無く登頂には積雪期を利用する愛好家が多い。これまで沢からの登頂記録はほとんど見つから
なかったが、岳友ogino氏の報告を読んで興奮を覚え早々に計画を始めた次第だ。

6月の天塩岳で本来、天塩富士を計画していたが、天候が悪い事と今季初の夫婦夏山登山である事
から足慣らしに登山道を・・・と変更していた。
予報通りガスの中の山行となり景色はまったく見ずに下山した。
次は、絶対天気の良い時に天塩富士を目指し絶景も見たいね・・・と夫婦の誓い?(笑)

天塩川本流左股沢は、前天塩岳コースが天塩川と平行して南に折れる分岐点に二股があり登山道
からは直接確認は出来ないが沢に近づくと分かる。


★ 2年分の藪漕ぎ・・・
今回の山行に関し情報はogino氏の報告だけ。
ルートと沢の状態・・・二股、三股、藪状況などである。コースタイムについて、敢えて聞かずに
挑戦したのは、自分たちの山行をよりエキサイトさせるために封じ込めた情報だった。
しかし、それが今までに経験したことが無い猛烈な藪漕ぎの連続になるとは・・・
沢の源頭部から始まり天塩富士~前天塩岳の約1.8㎞の稜線上は全て藪だった。
源頭から稜線までの藪はある程度覚悟していたが、稜線上の藪の連続は想定外だった。
這松、笹、灌木が混在する濃厚な藪で休まるところはほとんど無い。

当初稜線は、せいぜい2時間もあれば行けるだろう・・・と甘く見ていたのが大間違い。
私の体調不良もあって中々前に進まず時間だけが過ぎる感じだった。

紀行文は、未踏峰の登頂達成・・・と言うよりも藪山紀行的な要素が強く、いみじくも
チーヤンが「2年分の藪を経験したので今年の藪山はもういいわ!」とつぶやいた事が大きい。

そんな紀行を綴って見ました・・・。



登山口からすぐの登山道は明るい白樺林の中を歩く・・・

★ 連続の車中泊・・・
前回の夫婦登山は6月の天塩岳でした。
新車ハイエースを購入して始めての夫婦登山となり
天塩岳ヒュッテ前の駐車スペースで、ホテルハイエース最初の宿泊でした。

そして今回2度目となる車中泊も天塩岳ヒュッテ前とは・・・これ偶然です。

山荘に泊まっているらしい方の車は3台でした。内2台は本州ナンバーでしたが
そんなことはどうでもいいとすぐに安着の儀はいつもの事。
オールスター戦をラジオで聞きながら冷たいビールはやっぱり美味しい・・・。
愛別コンビニで買った日本酒「愛別和酒(あいべつなごみざけ)」純米大吟醸「ふしこ」も美味しかった。
愛別町産の酒米「吟風」100%を使用した精米歩合50%、製造元が私の住む隣町栗山町の
小林酒造というのも面白い。

今宵酔い痴れて野球の結果を聞かずに寝てしまった・・・。



最初の標識は、新道コース連絡路分岐の標識だ・・・

★ 不安と期待・・・
5:15 ヒュッテ登山口出発
先行者は2~3組居たようだが、目標の山もルートも違うのでほとんど挨拶もせず淡々と出発する。
曇り空も空気は澄んでいて視界は良さそうだった。風もほとんど無く絶好の登山日和と言えよう。
左股沢の出合付近で地図を見ていると、後続から追い着いた単独の男性が私たちを見て
「沢登りですか?」と聞いてすれ違う。今日山であったのは後にも先にも彼一人だった・・・。

読図をして本流を渡渉し左股沢に入る。
鬱蒼とした支流出合で一見分かり難いが本流に入渓するとすぐに分かる。

いよいよ出発!という気構えで緊張の中には不安と期待が入り混じり、なんとかピークを踏ませてくれと
心の中で神頼みしていた。

清流も変化に乏しい左股沢、川幅は最初10mほどあったが徐々に狭くなって1000m前後では
3m程となる。水量もせいぜい足首程度で滝は一つも無い。
ogino氏の報告では、全員長靴で遡行したようだが濡らさないよう踏み場所を選んで歩く遡行より
ジャブジャブ歩く遡行を好み沢靴を履く(私はスパイク地下足袋)事にした。
また夏靴も背負い途中から履き替える予定だ。



左股沢出合付近にあった倒木を渡って入渓する・・・


清流も変化に乏しい渓相だ・・・


位置確認で常に読図は欠かせない。1000m前後から沢幅が狭くなる・・・


1000m前後の沢から見えた山を天塩富士と間違えた・・・(本当は1430コブのようだ)


源頭部はヤチブキと蕗とオヤジの糞で鬱蒼としている・・・


沢はヤチブキの群生地だ!

★ 核心部は1100二股~・・・
7:40 C1100二股
入渓から約1時間40分、ほとんど休憩する事無く淡々と歩き続けた。
この間滝は一つも無く失礼だが「ブタ沢」と呼びたくなるほど変化に乏しい。
ヤチブキ(エゾノリュウキンカ)が沢のあちこちに群生し、新芽は鹿が食べた痕を残す。

遡行しながら枝沢のチェックは欠かせず現在地を確認しながらの遡行は基本中の基本。
1100二股では左を進むが水流は右沢の方が多く本流に見える。しかし、右沢は明らかに南の
方向で左沢は天塩富士のある東に向かっている。

地図とコンパスを信じて左に進むが沢幅は一気に狭くなり水量も少なくなる。
核心部と呼ぶのは、滝が連続して現れる・・・ではなく、この二股の分岐を見極め左に進む事を
言う。更に1250三股とある場所はどれも源頭を思わせるほど小さくその判断は微妙だ。
三股の左は実際少し手前にありほぼ涸れ沢。その先に二股があるも進む中沢も沢と判断する
には微妙なほど小さい。そして、右沢に水流がある。
どの沢を選んでもいずれは稜線に出るだろうがogino情報で中沢に入る。

最初から涸れ沢状態で幅は1mほど。
急傾斜となりどんどん高度を稼ぐ感じだが途中真新しい熊の糞が3ヶ所もあり思わず笛を出す。
沢形は1350付近まで続くも後半は軽い藪漕ぎもある。そして本格的な藪へ突入。



1100二股は左へ、突然の涸れ沢と藪の始まりだった・・・


1250三股から沢形はあるがほぼ藪状態の涸れ沢


1350沢源頭部付近から前天塩岳を望む


ようやく展望の開けた低い這松に辿り着き稜線は近い・・・


今日の目的の一つ、すばらしい展望が叶った瞬間だ!

★ 初登頂、天塩富士1450m・・・
1350~僅か100mの標高差だったが、笹と灌木、急斜度とハイ松の藪漕ぎは結構堪えた。
タイムチェックを忘れていたが30分は格闘したと思う。
出合った稜線は、天塩富士より100mほど南側のコル付近だった。
再びハイ松を漕ぎ狭い頂きに立ち、4時間半の登行を互いに握手して労った。
いつもの山頂コーラ・・・を忘れ、虫が多いので写真だけ撮って移動を開始するが・・・。



天塩富士山頂。背景は、前天塩岳と天塩岳そして長い稜線・・・

★ 体調不良・・・
以前にも何度が経験した山での体調不良・・・
熱っぽく、吐き気を伴なって物が食べられない状態。
水やゼリー状のものは口に入るがパンやおにぎりはダメだ。
足取りは極端に重くなり力が入らない。
熱中症とは違うものでチーヤンいわく「プレッシャー病」じゃないかと指摘する。

厳しい山行になればなるほど夫婦登山ではリーダー役の責任は重要。
これまでもルートを間違えてタイムオーバーとなり笹薮を何時間も彷徨う失敗もある。
藪に強くても責任の重圧に弱いエバの弱点を妻は見抜いていたのか?
以前の山行を持ち出してダラシナイ私を叱咤激励する?・・・

私の自己判断は、適宜の休憩と行動食を取らない事が原因・・・
沢でも休まず、藪漕ぎでも行動食はひとつも食べていなかった。
食べようとしても口に入らず気持ちには余裕が無いのかも知れない。

とにかく少し休んで、ゆっくり歩く事にした。



稜線上の岩場に咲く癒しのエゾツツジ


日高で見るエゾツツジよりひと回り小さくより優しさを感じた・・・


エゾツツジの咲く岩峰を乗越して稜線に戻る・・・

★ 経験の無い藪漕ぎ・・・
天塩富士~前天塩岳まで約1.8㎞
誰が見ても登山道は無く、藪続きの稜線だったが鹿道一本も無いオール藪の稜線だ。
最初は低いハイ松を辿れば意外に早く歩けると思っていたが、稜線から外れて歩くとハイ松の高さは
均等では無く間に灌木(白樺系)が邪魔をするように枝を捻じ曲げ進路を妨害した。
稜線の南東側はほぼ全面断崖絶壁の雪崩斜面。狭い稜線もハイ松や笹、灌木が入り混じり
格闘していると恐怖感を覚える余裕すら無くなる。どんなに濃厚な藪でも稜線上が一番良いと分かると
そこから外れる事無く忠実に痩せ尾根を辿る事にした。

結果として平均すると500m進むのに1時間以上掛かった事になり、それが4時間以上続くのは
これまでに経験の無い藪漕ぎとなった。

チーヤンが語る、「2年分の藪漕ぎをしたので今年の藪山はもういいわ!」と言いながらも
ヘロヘロ気味で体調不良の私を気遣って時々先頭を歩くチーヤンがとても頼もしく思えた。
小さな体のどこにあれほどの体力と元気があるのか?
そう思いながらも私自身が頑張らないとこの山行は終わらないとチーヤンから元気をもらった。



この藪の稜線を歩いて来たのかと改めて振り返る


前天塩岳まであと500mに近づいた地形図上の1394コル付近(前方右が前天塩岳)


切れ落ちた南東側は絶壁の雪崩斜面・・・そこにはお花畑が広がっていた


唯一稜線上にもあった「エゾカンゾウ」


1394コル付近から南東斜面の下に臨む岩塔はローソク岩と言うらしい。


一歩一歩が近付けた最後の岩場と前天塩岳が近い

★ 残り600mでようやく元気取り戻す・・・
12:50  地形図上の1394コル
地形図よりコルから登山道出合まで約600mと分かる。
それは稜線の3分の2を辿り終えた事になりこれまでの奮闘を振り返る余裕も出て来た。
気持ちが楽になると体調不良もどこ吹く風?・・・チーヤンの指摘は正解かも。

結果的にはこの600mに1時間40分を要したが、最後に変化に富んだ岩場の通過と花たちに
癒されて元気が戻って来た気がする。

登山道と出合った時は涙が出そうなほど安堵し嬉しかった。
誰も居ない貸切の前天塩岳に約ひと月振りの再訪となるがそれは格別なる再訪になった。

ここで沢靴から登山靴に履き替えてゆっくりと休み、最後の展望を楽しんだ。

そして、下りはもう何も考えずに只々登山道を辿るだけ。
迷う事も無く2時間で下りれると確信する。





高度感満点の岩場を慎重に通過するチーヤン


厳しい時ほど癒されます・・・「ジムカデ」


もう二度と辿る事は無い稜線と天塩富士を振り返る・・・


念願の展望は今日のご褒美です・・・充分堪能しました。


最後の最後の登りです。この向こうに登山道があります。


登山口から実に9時間半掛かって辿り着く前天塩岳は価値あり・・・安堵する


前天塩岳の下り登山道で唯一見つけた「コマクサ」本当に可憐でした~

★ ogino氏に感謝・・・
必ず見てくれると思うのでこのサイトから一言ogino氏に感謝の言葉を申し上げたい。

コースタイムの事を敢えて封印し、自分たちでも登れると挑戦した天塩富士でした。
結果的にはトータルで12時間というハード山行も無事下山出来たのはogino氏の情報があればこそ。
あれほど凄い藪漕ぎとは思いませんでしたが、終わって見ると逆に懐かしくそして愛おしいものですね。

妻はもう今年の藪山は行きたくないと言っていますが、私たちの山行に藪無しは在り得ず
今回の経験は非常に自分たちには自信に繋がるものと思いました。

ogino氏Pは、あの沢と藪を長靴で歩いたのですから凄い方たちだと改めて敬服しました。
きっとタイムもずっと早かった事でしょう。

これからも道北を始めとするマイナーな藪山情報を楽しみにしています。
機会があればまた山行を伴に出来れば嬉しいですね。良い思い出の天塩富士でした。

本当にありがとうございました。