北海道から青函トンネルを抜けて、本州へ初走行した北海道新幹線(撮影:久保田敦)

今回は特別に鉄道ジャーナル社の協力を得て、『鉄道ジャーナル』2016年3月号「北海道新幹線が踏んできたステップと最終切り替えまで」の一部を抜粋して掲載します。

今年3月26日、この日を境に津軽海峡線は北海道新幹線として生まれ変わる。だが、そのためには在来線として運行していた区間に新幹線用の設備を建設する工事が必要だった。しかもその工事は日々の営業を続けながら進めてゆかなければならず、異例の長期間に及んだ作業スケジュールがその困難さを象徴する。

また、現在は在来線のシステムで運行しているため、新幹線用に全面的な切り替えが必要である。そのため、この1月1日と、開業直前の3月22〜25日に、大動脈における在来線列車の全面運休が計画された。元旦は旅客と貨物列車とも、3月は旅客列車のみ運休し、貨物列車は営業運転を続ける。

工事は夜間に実施

北海道新幹線は、2002年に新青森〜新函館(計画時の仮称、2014年6月に新函館北斗と決定)間の工事実施計画認可申請がなされ、2005年、新青森〜新函館間が着工に至る。

同区間148.8kmは、本州側の新青森〜新中小国信号場(大平分岐部)間約29kmと北海道側の木古内(木古内分岐部)〜新函館間約38kmが新設区間で、青函トンネルを含む新中小国信号場〜木古内間、約82kmは、旅客の新幹線電車運行とともに貨物列車の運行を継続する「共用走行区間」となる。

共用走行区間における工事としては、軌道の三線軌化、2種類の異なる軌道中心線に対応するための架線の移設、架線電源の交流20kVを新幹線に対応する交流25kVへの昇圧、新しい運行管理システムの構築、そして運転保安設備の柱であるATCの新型化などがある。 

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共用走行区間は新幹線規格で建設されているので、土木構造物に手をつける必要はない。その意味では「あと少しを修正」すればよい。だがその修正は、営業路線を止めずに行わなければならない。

新幹線電車を運行するために在来線を改軌した事例としては山形新幹線・秋田新幹線が該当するが、その際は改軌工事佳境の約1年間、列車を全面運休して集中的な工事を行っている。北海道新幹線の場合はその点が根本的に異なり、先例のない課題となった。工事は夜間に限定されるが、通常の2時間半程度の保守間合いでは足りず、時間帯を拡大する必要がある。津軽海峡線には夜行寝台列車も運転されていたし、物流を担う貨物列車は夜こそゴールデンタイムだ。

2008年に工事は本格化したが、「北斗星」の減便など列車ダイヤの間合い拡大には苦心が多く、さらに拡大したところで確保される時間は実質的に3時間程度のため、工期はおのずと長くなる。ちなみに、新規に建設する区間における軌道工事着手は4年後の2012年だった。これらの軌道工事は2014年11月に全線が完了し、木古内駅で締結式を迎えた。

列車走行に係わる設備工事が出来上がると、次は試験運転の段となる。それは締結式に先立つ2014年10月から、まずは狭軌試験が、貨物列車用の機関車EH800形を使用して開始され、同年12月からは新幹線電車での運転も始められた。だが、ここでも営業路線という事情に影響される。

酷寒地での冬期試験は非常に重要だ(撮影:久保田敦)

試験実施のためには運行システムを新幹線用に切り替えなければならず、普段どおりの列車が走る日中は実施できない。

切り替えにあたっては「線路閉鎖」を措置し、新在合流地点の三線軌分岐は転換可能となるようキーボルト鎖錠を撤去、次に保安装置のATCや無線を切り替え、最後に電圧を25kVに加圧して、函館から札幌の新幹線指令への統制移行を完了する。その一連の作業に1時間程度を要し、戻す際にも同様の手順が必要だ。そのぶん、実際に使用可能な時間は狭まる。

とくに入線架線試験は時速30kmの低速から始めるため、青函トンネルを含む木古内〜奥津軽いまべつ間、約75kmを走り抜けるにも片道2時間を要する。次段のATC試験では、低速から信号パターンを逐一変更しつつ確認し、さらに共用走行区間では新幹線電車と貨物用機関車の各種組み合わせを検証するため、試験量は4倍になった。

これらの試験は日ごろの拡大間合いでも追いつかない。そこで、物流が止まる2014〜15年にまたがる年末年始に、「北斗星」や「はまなす」等の夜行列車もすべて運休し、7時間の間合いを確保して集中的に実施した。

開業直前まで訓練は続く

一方、試験期間が長期に及ぶもう一点の理由として、気候条件の特殊性がある。酷寒冷地のため冬期試験が不可欠であり、スケジュールにその試験のぶんを織り込む必要がある。そしてその冬期試験は、一冬目で徹底的に不備を洗い出し、二冬目で万全を確認する手順が必要だ。

国土交通省の検査・監査を経て設備の完成が確認されたのは2015年7月。これに伴い施設は整備主体の鉄道・運輸機構から実際の保守管理を行うJR北海道へと、8月1日に引き渡された。これを受けて8月下旬から、乗務員はじめ実際の従事者が習熟してゆくための、訓練運転が開始された。これは3月の開業直前まで繰り返されてゆく。 

この訓練運転は、運転士一人一人が全線で、定められた回数の経験を積まなければならない。「トワイライトエクスプレス」も「北斗星」もなくなった現在、通常のダイヤで当日最後の貨物列車が共用走行区間から抜けるのは概ね0時半、翌朝最初の貨物列車が入ってくるのは概ね4時半である。

切り替えに要する時間を見込むと間合いは3時間弱となる。訓練運転は、新函館北斗から新青森への往復という形で行われる。片道1時間余りなので、この間に運転可能な本数は最大3往復となっている。運転士全員が訓練を終えるには、やはり相応の日数を要してしまうのである。

今年元日には貨物列車も運行試験を行った(撮影:久保田敦)

苦労は、計画的に避けられるものだけではない。営業時間帯のダイヤが乱れると、訓練運転を中止して遅れた列車を通すのか、遅れた列車を翌朝に回して訓練を実行するのか、あるいは訓練運転を少し遅らせてスタートさせ、遅れの波及は翌朝の営業開始後に調整するのか――などの判断が迫られる。

そのためには、訓練開始前の運転状況を逐一追っておくことが必須であり、対処も日によって一様ではない。そのオペレーションは、JR貨物やJR東日本にも影響を及ぼすものであり、最も神経を遣う部分であると言う。

今の時期、二冬目の冬期試験も交えてスケジュールは濃密になっている。さらに、長距離の貨物列車は降積雪の影響を受けやすく、日本海縦貫線経由の列車はことさらリスクが高いだろう。順調に進めば2月いっぱいで完了するとされる訓練運転の計画だが、3月の開業直前までの日程を確保しているのも、そのためである。

北陸新幹線よりも長期に

設備工事が完成して新幹線車両を初入線させてから開業までの期間は、九州新幹線博多開業時の約6か月、東北新幹線八戸開業時の約8か月に対して北海道新幹線は約17か月をかける。同じく二冬の冬期試験を組み込んだ北陸新幹線の場合の15か月よりもさらに長期に及んでいる。

貨物列車との共用走行は、開業後も大きな課題を突き付けている。新幹線電車の最高速度が時速140kmに抑えられたのも貨物列車とのすれ違い問題によるもので、国土交通省は、技術対策を施して2018年春にまずは1往復の速度向上を図るとしている。

しかし、高速運転の最大のベースとなる線路には重量貨物列車が昼夜を分かたず走り、従来の新幹線であれば深夜0時から朝6時まで確保される保守間合いが、やはり短時間に限定される。ゆえに、容易には速度向上の断は下せない宿命を抱えているのである。


 とても興味がある記事。とくに三線軌(軌条?)。

久しぶりに鉄道ジャーナルを買ってみるかなぁ。でも定期購読している『旅と鉄道』も未読のものが溜まっているしなぁ。