金融マーケットと馬に関する説法話

普段は資産運用ビジネスに身を置きながら、週末は競馬に明け暮れる老紳士の説法話であります。

【ノーベル経済学賞 2022】 元FRB議長のバーナンキ氏ら、米国の3氏が受賞!

2022-10-20 05:37:51 | ノーベル賞

 先週、ノーベル賞の自然科学系3賞の特集を組みましたので、社会科学系唯一のノーベル賞である経済学賞2022についても、触れさせて頂きます。

 

 2022年のノーベル経済学賞は、アメリカのFRB=連邦準備制度理事会の元議長、ベン・バーナンキ氏、アメリカのシカゴ大学の栄誉教授、ダグラス・ダイヤモンド氏、それに、アメリカのワシントン大学セントルイスの教授、フィリップ・ディビッグ氏の3人に贈られることになりました。

 

 

 授賞理由については、「経済における銀行の役割への理解を深めた。それにより、金融市場への規制や金融危機への対処の仕方について多くの示唆を与えた」としており、より具体的には、現代の銀行についての研究では、銀行がなぜ必要なのか、銀行の破綻がいかに金融危機につながるかが明らかにされているが、これらは1980年代はじめに行われた3人の研究が基礎となっているとのこと。そして、3人の研究はその後の金融市場の規制や金融危機の対処方法に重要な役割を果たしたとのこと。

 

 一方で、一部の経済紙では、バーナンキ氏はリーマン危機後の金融システム維持に奔走した結果、世界に過剰なマネーという難題を生み出したと指摘。危機対応が次のバブルを生む負の連鎖をどこで断ち切れるのか、解は出ておらず、低金利を背景に途上国などに広がった過剰な債務は、この仕組みが持続可能なのか問いを突きつけられているとしています。また、経済評論家の中には、かなり的外れな批評を地上波TVで述べている輩が散見されます。

 

 ちなみに、金融界、特にマーケットに近い仕事に従事する人間からすると、『ノーベル経済学賞にバーナンキ氏』と聞くと、第一印象は「あれ?」という意外な感覚に襲われます。というのは、バーナンキ氏は、アカデミックな研究者というよりも、FRB議長を務めたように、「実務家」の印象が強いため。

 しかし、よくよく考えてみれば、1980年代に書いた論文が認められたことで、サブプライムショックからリーマンショックへと続く未曾有の金融危機への実務対応を、有名な経済学者が異例の抜擢人事を受けたというのが実態であり、彼が研究者から実務家となったのは結果にすぎません。

 また、上記のように、一部の経済紙や経済評論家からは「批判めいた記事」が寄せられたのも、ノーベル賞受賞者に対しては異例なことでありますが、権力側のFRB議長経験者であることから、記者や評論家にしても、つい筆が進み過ぎて書いちゃったということだと思います。

 ちなみに、金融政策や財政政策など、常に変化する経済システム・政治システムが相手なので、永遠に正解であり続けられる理論・政策論は存在しませんリーマンショック時にバーナンキ氏が対応した手法は、その時にはベストと言えるものであり、その後の副作用については、それはそれで考えていくしかないのが経済政策であります。例えるならば、抗がん剤を打たなければ、癌の増殖は止まらない。しかし、抗がん剤を打って癌を消した後にも、抗がん剤の副作用は残ります。そのこと事態を問題視して、抗がん剤を打ったことを批判するのはおかしいということ。

 

 ここは、素直にノーベル賞受賞者に対しては、敬意をもって祝福するべきと自分は考えております。

 

【追】ちなみに、白川 元日銀総裁は、今回のバーナンキ氏の受賞をまず率直に祝福されています。そのうえで「ただし、政治・世論のプレッシャーが強かったとは言え、リーマンブラザースを破綻させてしまったことは、氏の業績における残念な点」と、ポイントを突いた批評を述べられています。これこそが、バーナンキ氏への正しい論評。さすが、白川さんであります。


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【ノーベル化学賞 2022】 『クリックケミストリー』で2度目のノーベル賞受賞者も⁉

2022-10-14 05:38:30 | ノーベル賞

 2022年のノーベル化学賞は、「クリックケミストリー」などの発展に寄与した米国とデンマークの3氏に贈られることになりました。

 受賞するのは、米スタンフォード大のキャロリン・ベルトッツィ教授(55)、デンマークのコペンハーゲン大のモーテン・メルダル教授(68)、米スクリプス研究所のバリー・シャープレス教授(81)。

 

 

 シャープレス氏メルダル氏は、簡単な化学反応によって複雑な分子を作る「クリックケミストリー」の理論的な基礎を築き、ベルトッツィ氏は、生きた細胞の表面で実際にこの化学反応を起こすことに成功したそうです。この「クリックケミストリー」の技術が、現在までにがんの治療薬の開発などに利用されているとのこと。

 なお、3氏のうちバリー・シャープレス氏は、2001年にも野依良治氏(84)とともにノーベル化学賞を受賞した方。化学賞を2度受賞するのは、史上2人目だそうです。

 

 ちなみに、そう聞いた時に、私は「1人目はキュリー夫人だ!」と叫びました。ところが、よく調べてみると、マリ・キュリー1903年に夫のピエールらと3人でノーベル物理学賞を、そして1911年には単独でノーベル化学賞を受賞しており、化学賞2回ではありませんでした。

 ところで、ノーベル賞を2回受賞した人は、その他に、アメリカ合衆国の量子化学者ライナス・ポーリング1954年に化学賞と1962年に平和賞を受賞、アメリカ合衆国の物理学者ジョン・バーディーン1956年と1972年に物理学賞を受賞、イギリスの生化学者フレデリック・サンガー1958年と1980年に化学賞を受賞、そして今回のアメリカ合衆国の化学者バリー・シャープレス5人目でありました。

 また、ノーベル賞を複数回受賞したことがある団体は、國際連合難民高等弁務官事務所1958年と1981年に平和賞を2度受賞、さらに赤十字国際委員会1917年と1944年と1963年と平和賞を3度受賞しているそうです。

 

 いや~、キュリー夫人以外に、ノーベル賞を2回も受賞している人を知りませんでした。勉強になりました!


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【ノーベル物理学賞 2022】 ベルの不等式の破れを実証? 量子もつれ⁉ う~む・・

2022-10-13 05:45:46 | ノーベル賞

 2022年のノーベル物理学賞は、ミクロな粒子の間で「量子もつれ」と呼ばれる特殊なつながりが生じることを実験で示した米欧の3氏に贈られました。

 受賞するのは、米国のジョン・クラウザー博士(79)と、フランスのパリ・サクレー大のアラン・アスペ教授(75)、オーストリア・ウィーン大のアントン・ツァイリンガー教授(77)

 

 

 3氏は、量子情報科学という新分野を切り開き、量子コンピューターなどの技術の土台を築いた業績が評価されたとのことです。しかし、新聞報道では『ベルの不等式の破れ』とか、『量子もつれ』とか、意味不明な言葉が飛び交って、その破れを実証したとか、もつれの存在を実験で証明したとか、何のことやら丸で分かりません。恐らく、書いている記者も分からず、ただ言われたとおりに報じたまでなのでしょう。

 

 少し分かりやすく解説してくれている「記事=読売新聞」を見つけたので、それをお借りしながら、内容を紐解いていきましょう。

 原子や電子など小さな粒子(量子)は、日常感覚とかけ離れた特殊な性質を持つ。その一例が『量子もつれ』で、2個の粒子が『量子もつれ』の関係にあると、遠く離れていても、一方の物理的状態を測定するだけで他方の粒子の状態も定まる。物理学者アインシュタインらが1935年、「もし量子力学が正しければ、こんな不気味なことが起きる」と懐疑的に予言した。

 

 すなわち、相対性理論の天才アインシュタインは、宇宙の全ての事象は「シンプルな数式」で表わせるはず!という立場から、極めて小さな量子は確率論でしかその存在を表せないとする「量子力学」「量子論」を全面否定する学者でありました。そのアインシュタインが、敵対する「量子論」を否定するために予言した『量子もつれ』の存在を、その34年後にクラウザー氏が確認する方法を提唱、そして37年後にはそれを実証してしまって、アインシュタインの意向とは逆に、「量子論」の正しさを証明したことが、今回の業績のスタートのようです。

 次に、アスペ氏が1982年に光子(光の粒)を使った実験で『量子もつれ』の現象を確かめ1997年にはツァイリンガー氏が『量子もつれ』の関係にある光子のペアを作って、情報を瞬時に移す『量子テレポーテーション』の実験に成功したということ。

 

 川畑史郎・産業技術総合研究所副研究センター長によると、「量子コンピューターや量子通信など、現在の技術の発展につながる原理を実証した3氏で、量子技術分野の『巨人』ともいうべき存在だ。今後もこの分野での受賞が続くことが期待される」とのこと。

 要は、『ベルの不等式の破れ』とか『量子もつれ』の存在から発生する『量子テレポーテーション』という現象を制御する技術があれば、現在のスーパーコンピューターの性能を遥かに凌駕する量子コンピューターが生まれることになるのだそうです。専門家が言うには、今のスーパーコンピューターでは何万年もかかる計算を瞬時に終わらせるくらい、全くの別次元のシロモノとのこと。

 

 何だかピンと来ませんが、例えば、現在では絶対に破られないような、コンピューターシステムのパスワードなど、量子コンピューターならば、あっという間に見破ってしまうそうです。そう聞くと、便利なようで、不便なシロモノかもしれませんね。量子コンピューターは!

 あと、AI技術でよく聞く『機械学習』向きのコンピューターなので、人間に替わる『量子コンピューター裁判長』とか、『量子コンピューター医師』とか、またまた『量子コンピューター教師』を生む技術と言えば良いでしょうか?

 

 上記の3氏は、本当に人間の役に立つものを見つけたのでしょうかね・・?

 


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【ノーベル医学生理学賞 2022】 ネアンデルタール人のゲノム解析‼

2022-10-12 05:41:57 | ノーベル賞

 本日から3日間、2022ノーベル賞シリーズをお送りします。

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 2022年のノーベル医学生理学賞に、スウェーデン出身の研究者スバンテ・ペーボ氏が選ばれました。

 

 

 スバンテ・ペーボ氏は、ネアンデルタール人のゲノム解析に成功して、現在の人類であるホモ・サピエンスと、それに最も近いとされているネアンデルタール人との関係を解き明かす道筋を発見したとのこと。

 ちなみに、ネアンデルタール人は約40万年前から約3万年前までヨーロッパと西アジアに住んでいましたが、その後に絶滅。一方で、約7万年前、ホモ・サピエンスがアフリカから中東に移動し、そこから世界に広がって今の人類になっていったのですが、同時期にユーラシア大陸で共存していたホモ・サピエンスとネアンデルタール人が、どのように関係して、何が起きたのか、考古学上の長年の課題であり、謎でありました。

 もちろん、今でも多くの『謎』は残っているのですが、この研究で明らかにされたのは、我々ホモ・サピエンスには、当時のネアンデルタール人の遺伝子の一部が反映されているということ。すなわち、同じ人類として交わりがあって、何らかの関係が生じていたことが明らかになったのです。

 

 ここからは、数年前のNHK特集【上記スバンテ・ペーボ氏の研究をメインに構成した番組でした!】で学んだことも混ぜながらお話します。ネアンデルタール人の特長は、運動能力が強く、かつ知性が高く、個体ベースでは、ホモ・サピエンスの能力を凌駕していた可能性が高かったようです。また、生活する集団の単位が、家族・親族という小集団に限られていたらしいとのこと。一方のホモ・サピエンスは、狩りや生活を合理的効率的に行う目的だと思いますが、家族だけでなく、地域でまとまる中規模集団を作って、皆で協力しながら生きる生活様式を採用していたと考えられています。

 ホモ・サピエンスは、中規模集団を形成して皆と協力しながら、狩りや収集、自らの縄張りの防衛などを行っておりました。家族集団ではないが故、コミュニケーション手段や、規律などが発達していきます。言葉が発明される前から、掛け声や手話のような動作を組み合わせて、狩りにおける現場での指示や、群れの中での相応に複雑なコミュニケーションを、一定の規律をベースに、実現していったと思われます。また、まだ頻度は少ないと思いますが、ホモ・サピエンス同士の群れの縄張り争いなどもあって、集団で闘うノウハウも少しずつ積んでいったことが想像されます。

 一方のネアンデルタール人ですが、個体としての腕力や運動能力、そして考える知性などはホモ・サピエンスを凌駕していたと思われますが、生活する単位が家族・親族となると、複雑なコミュニケーション方法や、規律などを発達させる必要はなかったと思われます。また、もしホモ・サピエンスの集団と縄張りを争うような事態になったら、家族の安全を考えて、闘うよりも逃げる選択をしたのではないかと想像します。

 

 そうやって、縄張りを失っていったネアンデルタール人は絶滅していったと考えられます。

 ただし、群れと群れの争いなどの混乱の中で、たまたまネアンデルタール人の赤ん坊を見つけたホモ・サピエンスの一部の人が、その赤ん坊を育てて、ホモ・サピエンスの社会に融合させたこともあったでしょう。運動能力が高く、知性も高いネアンデルタール人の赤ん坊ですから、成長した後は、ホモ・サピエンスの群れの中でも大いに活躍できたはずです。そうやって、ホモ・サピエンスの社会の中で、一部のネアンデルタール人の遺伝子が大事にされて残っていった・・。

 そんな風に考えると、スバンテ・ペーボ氏のゲノム解析研究から人類のロマンが広がっていきます。

 

 同じようなロマンが、縄文人と弥生人が混ざり合って成立した我が日本人にはあります。いや、日本人は、アイヌ人や隼人の血も混ざって成立しているはずです。

 ちなみに、スバンテ・ペーボ氏は、沖縄科学技術大学院大学(OIST)のヒト進化ゲノミクスユニットの客員教授でもある由。ひょっとしたら、さまざま土着の血脈を絶やさずに、むしろ多様な血を取り入れながら成立していった現代日本人に興味があって、このポストに就任されたのかもしれませんね。


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